最近の車には、標準で装備されているスマートキー。車の鍵をドアに差し込まずにドアロックを施錠したり、解錠したり、エンジンをスタートさせることが出来て、非常にセキュリティが高いキーだ。
だがこのスマートキーでも、簡単に盗まれてしまう車両窃盗の手口が横行している。特に、高級車を狙った手口が多いようで、あなたの車も狙われているかもしれない。どんな車でもスマートキーであれば、窃盗される可能性があり、いとも簡単にドアを開け、エンジンをスタートして、そのまま素知らぬ顔して運転しその場を立ち去ってしまうのである。
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近年の盗難車の数は年々減っている

出典: 自動車盗難の現状と盗難防止対策の強化に向けたイモビライザ標準装着の法制化について 日本損害保険協会 https://www.mlit.go.jp/common/001110826.pdf
盗難車の届出の数は、イモビライザー装着によって年々減ってはいるものの、キーが抜かれていても盗難されているのが現状だ。
この数字の中には、物理的に車をレッカー車などで組織的に行われたものも含まれているだろうが、近年は驚くべき手口で、しかもいとも簡単に行われている方法があるのだ。
イモビライザーとは、鍵にキーのIDが暗号化されて記憶されていて、トランスポンダという通信用チップがこのIDを車に送信しIDを認証する。正しいキーだと認証されれば、鍵穴のシリンダーに差し込んだキーを回すとドアを開けたり、エンジンをかけたりできる機能のことで、非常に盗難防止の防犯性が高いものだ。
この鍵IDや通信の暗号化には、無限の組み合わせがあることから、解読には事実上不可能だ。
スマートキーってどんなもの??
スマートキーは、そもそも物理的な鍵部分がなく、数個のボタンがある小型のリモコンキーのようなものが多い。鍵穴に鍵を差し込まなくても、スマートキーを持った人が所有車に近づいてドアを触ると、ドアの鍵が開いたり、エンジンボタンを押すだけでエンジンを始動することができる。
驚きのスマートキー搭載車窃盗の手口
このようにスマートキーは、キーに記録されているIDも暗号化され、車との通信も暗号化され、事実上解読はほぼ不可能なはずなのに、いとも簡単な方法が横行している。
それは、リレーアタックという手口だ。
ドアロック解除のメカニズム
まずは、スマートキーのドアロック解除のメカニズムを見てみよう。
ポケットなどにスマートキーを入れて携帯していることが前提だ。

ドアロック解除のメカニズム
ドアを開けるために車体に触れると、車はLFダウンリンクと呼ばれる低周波の無線電波を送信する。
このLFダウンリンクの通信範囲は3m未満と非常に狭い。車の周辺に鍵を持った人を検出するためだ。
スマートキーが車の周辺3m未満にあれば、スマートキーはLFダウンリンクを受信して起動する。
次にスマートキーは、UHFアップリンクと呼ばれる高周波の電波(車が発するLFダウンリンク低周波とは別の電波)を使用して、鍵IDなどのセキュリティ情報を車に向けて送信する。車はUHFアップリンクを受信し、鍵IDなどの照合で問題なければ、ドアロックを解除する。
また、LFダウンリンクは電界強度(電波の強さ)を細かく制御することができるため、鍵が車外にあるのか、車内にあるのかを判断することができる。
もし、スマートキーが車の外で周辺にある場合、ドアロックが解除される。もし、スマートキーが車内にあると判断されるとエンジンを始動することが可能になる仕組みだ。
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リレーアタックによるドアロック解除メカニズム
自宅に駐車している場合

自宅に車を駐車し、スマートキーは家の中にある時
もし、このスマートキーが車の近くにはなく、ある一定の距離以上離れていると(例えば自宅に鍵が置かれているとする)、車は鍵が周辺に無いと判断しドアロックは当然解除されない。
誰かが車のドアに触ると車は無線電波(LFダウンリンク)を発射するが、LFダウンリンクは3mしか飛ばないので、自宅にあるスマートキーには電波は届かない。ドアロックを開けようにもスマートキーと通信できないので、ドアロックは開かないのだ。
特殊装置で増幅

リレーアタックによる電波増幅
リレーアタックの手口は、ある特殊な無線装置を持った者が、お目当の車に近づきこの信号(LFダウンリング)をその特殊な装置で受信する。そして、その信号を増幅させて、そっくりそのまま受信した信号を家の中にあるスマートキーに向けて送信させる。
自宅に置いてあるスマートキーはこの増幅した信号を受信してしまう。
あとは、通常のドアロック解除のメカニズムと同じでUHFアップリンクで鍵IDを送信してしまうのだ。この時、UHFアップリンクは通常50m程電波が届いてしまうので、自宅内から容易に自宅前に駐車している車と通信できてしまう。
その特殊装置はスマートキーの信号をそっくりそのまま送信するので、車はあたかも本物のスマートキーであるかのように誤認してしまうのだ。
つまり、バケツリレーのように車からの信号を中継機のようなものでそのまま伝達し、あたかも車がそのスマートキーの近くにあると装うのである。スマートキーは、自分の鍵IDを車に送信し、車は正しい鍵IDが帰ってくるので、そのキーが近くにあると判断してドアロックを解除してしまうし、そのまま車内に乗り込んだ場合はエンジンも難なくスタートさせて何食わぬ顔をして車を運転して立ち去ってしまうのだ。
一度、エンジンをスタートすると、エンジンを止めない限り、どこまでも運転することが可能だから、どこか他の場所で改造したり、部品にバラされ、転売される。
実際の映像
実際のリレーアタック映像をご覧いただきたい。なんと驚くことに高々1−2分で終えている。
下の映像をクリックすると、YouTubeが開きます。AMPページをご覧の方は、YouTube画像が表示されない場合、このページ上部の『完全版を表示する』をクリックして完全版のページでご覧ください。
リレーアタックの巧妙な点
スマートキーの位置検出には、受信信号の強度を測定して、かなり正確な位置検出が可能になっている。
このリレーアタック装置の巧妙なところは、いくらスマートキーの暗号化やセキュリティが高くとも、リレーアタック装置はデータそのものに手を加えたり、暗号を解読したりすることはしない。データはそっくりそのまま、車にまたはスマートキーに伝達させるだけなのだ。だから、データそのもにはなんら瑕疵などなく本物そのものなのだ。
巧妙かつスマートな手口なのだ。
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リレーアタック対策済みの車両
更新:2019年6月3日
全世界で、リレーアタックによりもっとも盗難された車種は、実は、ジャガーランドローバー社の車種だったのだ。
そして、今、現在で、このリレーアタック対策された自動車メーカーは、世界で、ジャガーランドローバー社とフォルクスワーゲン社以外にないのが現実だ。ジャガーランドローバー社では、ディスカバリーやレンジローバー、Jaugar i-Paceなどが対策済みだ。
もっとも被害が多かったジャガーランドローバー社が事態を重く見ていち早く対策したのだろう。
もしかすると、既にこれらメーカー以外にリレーアタック対策した車を世に出した可能性もある。
リレーアタック対策技術、それは位置検出技術だ!
リレーアタックに唯一有効な技術が、スマートキーと車体との距離を実測してスマートキーの位置を検出すること以外にない。上記のメーカーはいずれもUWB(Ultra Wideband)と言う新しい無線技術を使用してスマートキーに実装している。
日本車の対応車種はまだ無い!
逆を言えば、上記2社以外は、リレーアタック対策された車種は無いのだ。
日本では、レクサスやトヨタプリウスがリレーアタックの被害に遭いやすいと聞く。世界的にもこの2車種が人気のためだ。
だた、着々とジャガーランドローバー社やフォルクスワーゲン社の後に続いて、リレーアタック対策車が投入されるはずに違いない。
レクサスのリレーアタック対策は省電力モードで
スマートキーを省電力モードにする
レクサスのスマートキーは、省電力モードなるものが存在する。
通常、スマートキーは常時微弱な電波を出力しているが(これがリレーアタックされるのだが)、省電力モードに入れることで微弱電波を止めることができリレーアタックに対策を講じることができる。
その結果、増幅してリレーする微弱電波がないため、ドアの解錠やエンジンスタートができない仕組みだ。自宅前の駐車場などに長時間止めておく時などは、スマートキーを省電力モードにしておいた方がいい。もちろん、外出時でも車を離れる時に省電力モードにしておくことでリレーアタックに対しては安心できる。
では、実際に、レクサスのスマートキーを省電力モードに入れる方法だが、
- スマートキーのロックボタンを押しながら
- アンロックボタンを2回押す
- その後、赤いランプが4回点滅する
これだけで、省電力モードに入れることが可能だ。
G-Linkセキュリティを活用
さらに、レクサスであれば、「G-セキュリティ」サービスもある。盗難などされた場合には、要請することで即座に盗難車両位置をGPSで追跡して、警備員を派遣してくれる。
リレーアタックの防犯対策
上記のような対策ができない場合には、物理的な防犯対策をおすすめする。
電波遮断
今のところ、我々自らができる防犯対策としては、スペアキーを含め、自宅に置いてある鍵を無造作にテーブルの上に置くのではなく、次のような方法で増幅されたLFダウンリンク信号を受信しないように防犯する必要がある。
- 電波を通さない缶の箱の中に入れる
- アルミホイルなどで覆う
- リレーアタック防犯用グッズ(電波を遮断するバッグなど)を使用する
などで、防犯が可能だと考えられる。
スマートキーは、車両からの電波で通信を開始してしまうので、基本的には電波を遮断してしまえば、スマートキーが車と通信することは無いので、リレーアタックを防止できる。
ハンドルロックバー
また、自宅に止めている場合には、物理的にハンドルロックバーなど使用することで、たとえドアロックを開けられたとしても運転ができない状態にしておくことで防止できる。
ガレージを設置する
自宅の駐車スペースを、特にシャッター付きのガレージにすることで防犯になる。リレーアタックで狙われやすい環境は、自宅の駐車スペースでシャッターが無いところに駐車している車だ。
防犯カメラや防犯ライトを設置する
ガレージが設置できない場合には、防犯カメラや防犯ライトも。ただし、リレーアタックの手口では1〜2分の作業で行われるため、完全に防犯できる訳では無い。
実際にリレーアタックで盗難にあった場合に、証拠としても提出できる可能性があるので、防犯カメラは設置しておきたい。
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車両保険
万一、愛車がリレーアタックに会ってしまった場合には車両保険が頼りだが、現状盗難に会った場合などには、保険金が下りないという事例が多いようだ。
保険会社は、経済的な状況まで確認し、実は、裏で車を売ってしまっているのではないか?などと疑われるし、厳しい検査をパスしなければならず、事実、車の盗難件数に対し、実際に保険金が下りた事例は圧倒的に少ないのが実情だ。
こんな時のためにも、証拠として防犯カメラなどは設置しておきたい。
車メーカーも手をこまねいて見ている訳ではない。様々なリレーアタック対策の開発が着々と進んでいるはずだ。
今後は、車両保険としては、リレーアタック対策搭載車以外は保険加入ができないなどの処置があるかもしれない。
かといって、車両保険に入っていないのは、リスクが大きすぎる。
車両保険は検討しておきたい。
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まとめ
近年、車のスマートキー搭載車が増えて来たが、リレーアタックは恐ろしい盗難手口だ。今のところ我々が自らこのリレーアタックの盗難を防犯する手立ては少ない。
自動車メーカーも手をこまねいている見ている訳では無いだろう。早く自動車メーカーにはこの対策を講じてもらいたい。